日本で熟成肉のブームが巻き起こり、熟成肉の認知度が上がって、すっかり一般に浸透しました。
この『熟成肉ブーム』は日本だけではなく世界的なものになっています。
私たち小川畜産興業もそうですが、熟成肉ブームがやって来る前から『ドライエイジング』や『熟成肉』という言葉を知っている食肉卸し業者やレストランはたくさんあったと思います。
しかし日本ではドライエイジングの文化や技術が浸透しておらず、カビや微生物と上手く付き合わなければならないドライエイジング技法は衛生管理の面から見ても“着手しない”という選択をする所が多かったのだと思います。
もちろんドライエイジングは難しいというのもありますが…。
今日本では熟成肉をレストランや小売店、スーパーマーケットや百貨店などに卸している業者も複数ありますが、同じようにアメリカ・ニューヨーク以外の国や都市で独特の文化を築きながらドライエイジングの熟成肉が浸透して食べられています。
今回はニューヨークを離れてフランスの熟成肉文化についてご紹介したいと思います!
赤身一択!サシ入り肉は嫌悪される
フランスでは牛肉を食べる文化が深く根付いています。
そしてヨーロッパ諸国の中でも酪農大国として知られているんです。
牛肉の生産量はヨーロッパ内でトップ!美食の国フランスは牛肉大好きな国なんですね。
フランスにはフランスの熟成文化がありますが、ニューヨークから始まったドライエイジドビーフはフランス国内でも関心を集める存在になっています。
そんなフランスの『高級肉』の基準は日本とは正反対!と言えそうなほどまるっきり異なっています。
フランスの食肉文化において、牛肉に求められるのはとにかく脂の入っていない赤身であることです。
日本人が「美味しそう!」と思うような程よく脂がのった牛肉はフランス人には嫌われる肉です。
脂ゼロの真っ赤な赤身肉がフランスでは最高級で、少しでも脂の入っている肉は難色を示されて食べてもらえません。
そもそもサシの入った肉が高評価を受けるのは世界でも日本くらいなので海外で脂ののった肉は好かれませんが、フランスはアメリカと比べてもさらに赤身至上主義の国。
熟成肉やドライエイジングの文化の違い以前に、日本とフランスの牛肉の評価基準や価値観は大きく違っているんです。
シャロレーがフランスの代表食肉種
フランスを代表する食肉牛の品種が『シャロレー』です。
フランス中部のブルゴーニュのシャロレー地方の牛で、乳用・食肉用・役用を兼用していた品種が肉食専用種に改良されたものになります。
シャロレーはフランスで広く一般的に食べられている牛肉の品種で、毛色は白〜クリーム色。
お尻の部分が大きく育ち、日本の食用種と比べて明らかに赤身の肉が育ちやすい品種です。
もう1つフランス原産の品種で知られているのが『リムーザン』という品種。
こちらは赤毛の牛で、フランス中南部のリムーザン地域の役牛を食肉種に改良した品種になります。
リムーザンもフランスを代表する食肉用品種ですが、生産量は圧倒的にシャロレーが多いので飼育頭数的には少数派です。
それでも最近はシャロレーよりもリムーザンの方が人気があるとも言われていたり、熟成肉には絶対リムーザン!というこだわりを持っている業者もいるようで、フランスを代表する品種になっています。
海外で一般的なのは放牧飼育!
牛の写真というと、牛舎の中にいるホルスタインや品評会に並ぶ黒毛和牛、放牧されている牛…といった物を思い浮かべる人が一般的に多いと思います。
しかし日本の牛は基本的にほとんどの期間を牛舎の中オンリーで育てられていて、完全放牧どころか半分放牧・半分牛舎飼育というのもとても少ないんです。
和牛の中でも日本短角種や褐毛和種といった品種は放牧に向いているので「夏だけ放牧」「数年ごとに放牧」という育て方をされている牛もいますが、これはとっても希少です。
一方で世界的には放牧での飼育が主流。
牧草を食べて育った牛は赤身が中心の肉質になるので赤身肉の方が好まれる国ではこちらの方がベターですし、牧草のような“粗飼料”と言われる餌は安いのでコストパフォーマンスにも優れているといる面があります。
ニュージーランドやオーストラリアなどの広い土地がある国なら広々と放牧できるので、これらの国は牛肉の生産大国としても有名です。
牧草などがメインの“粗飼料”に対して、日本の食用種は“濃厚飼料”で育てられています。
濃厚飼料というのはトウモロコシ・麦・米といった物がメインのエサで、日本の肉用種の牛には主にアメリカから仕入れたトウモロコシで作られたエサが与えられています。
日本人は普段アメリカのトウモロコシで育った牛肉を食べているのでアメリカの牛肉と相性が良く、だからアメリカの肉が人気だと言えるかもしれません。
日本と逆を行く!経産牛が圧倒的人気!
フランスで美味しい肉は赤身が前提とご紹介しましたが、もう1つ高評価を受ける絶対的な条件に『経産牛であること』というのがあります。
経産牛は出産を経験した牛のことで、日本では人気がありません。
硬くて美味しくない!という評価を受けます。
しかし!フランスでは経産牛が好まれ、中でも5〜6回の出産をした牛の肉が最高だ!と賞賛されているんです。
フランスで出荷されている牛肉の約半分は経産牛で、5〜6回出産をしている牛肉の熟成肉は濃厚で旨味が凝縮され、独特の風味を感じられます。
こんな風にフランスの牛肉観と日本の牛肉観はまるっきり違うので、やはりドライエイジングや熟成肉に対する考え方や肉に求める事もかなり違います。
食文化や感性の違いによって日本ともニューヨークとも違う食肉文化と熟成肉がフランスにはあるんですね。
熟成は科学!浅い熟成が好まれる?
フランスの熟成はカビや微生物には意味が無いと考えられているようで、実に科学的にドライエイジドビーフが作られています。
アメリカ・ニューヨークではトリミングした時に切り落としたカビが付着した部分をドライエイジング専用の熟成庫に入れて熟成を促進させていたりもしましたが、フランスでそれは見られません。
これも肉に対する考え方の違いの一端のように感じます。
フランスのドライエイジングでの熟成には研究機関と研究者が関わっていて、科学的な視点で熟成の方法や熟成庫の環境整備を進めているんです。
熟成庫の中はラックに肉を置くのではなくて吊るされている状態で熟成が進められたり、庫内の風の回し方やセンサーの設置など実験と分析を重ねて設計された作りになっているようです。
日本ともNYとも違う熟成過程
フランスの熟成肉大手のドライエイジングは2段階になっていて、第一熟成庫→第二熟成庫と肉を移動して熟成が進められています。
ニューヨークの熟成専門業者でドライエイジングをシステム化していたところもありましたが、こちらはそれとはまた違っています。
フランス熟成肉大手で最初に食肉を入れる第一熟成庫では強い風を当てて水分を飛ばします。
これに関してはニューヨークの熟成肉専門業者の手法と同じですが、この時の庫内環境は違っています。
ニューヨークの方では湿度80%以上の環境で台風並みの風を当てていましたが、フランスの方では湿度は40%程度でニューヨークの半分以下。
この中で約一週間ほど強い風で乾燥させた後に第二熟成庫に移された肉は、湿度60%の中でやんわりした風を当てられて熟成されていきます。
日本より”浅め”の熟成肉が好まれる
フランスのドライエイジドビーフの特徴は、日本の熟成肉より熟成が“浅い”ということです。
熟成期間が長くなれば肉の味も変わっていきますが、フランスで好まれるのは日本で食べられている日本人好みの熟成肉よりも熟成が浅めの肉。
これは好みというのもあると思いますが、肉食文化の違いというのも関わっていると思います。
ドライエイジングで熟成された肉の独特の熟成香・フレーバーというのは、熟成過程で脂に変化が起こると醸成されますが、フランスで食べられている赤身の牛肉にはサシがほとんど入っていないので、日本やニューヨークと同じ期間熟成しても脂の変化が少ないんです。
これが熟成肉のフレーバーが少なく、熟成が浅めの肉が好まれる要因なのだと思います。
ドライエイジングと熟成肉に対して、食文化の違いでこんなにも差があるんだなと感じられますね。
フランス式最高級肉は日本では食べられない…
フランスで最高級と称される肉は5〜6回の出産を経た経産牛だとご紹介しましたが、この肉は残念ながら日本では食べられません。
近年はイタリアやスペイン、そしてフランスの牛肉も日本に入って来て流通するようになっていますが、その輸入条件に『月齢30ヶ月以下のもの』というのがあります。
5回の出産経験のある牛は少なくとも5歳。5〜8歳の牛となると、最年少でも月齢は60ヶ月になってしまうので、日本国内に流通することは今の時点では不可能です。
それでもフランスの月齢30ヶ月以下の肉・熟成肉を食べることができるレストランはあるので、フランス式のドライエイジドビーフもぜひ堪能してもらえたらと思います。
経産牛の熟成肉なら小川興業にお任せ!
世界的には赤身・経産牛の評価が高いということですが、メイドインジャパンの経産牛の熟成肉もちゃんとあります。
日本の牛でも乳用種は食用種と比べて肉質が赤身寄りで、熟成肉に向いていると言われたりもします。
実際に乳用種の肉でつくった美味しいドライエイジドビーフはたくさんあるんです!
小川畜産興業はドライエイジングの熟成肉を小売店・レストラン・肉バル・スーパーマーケットなどに卸していますが、ドライエイジドビーフの主力には乳用種を置いています。
食肉加工・卸しを長年行ってきましたが、食用種だけではなくて乳用種の取り扱いも昔からあったので、乳用種の熟成肉の魅力を感じてから積極的に使うようになりました。
赤身肉・乳用種の熟成肉に興味のある方は是非お声がけいただければと思います。
熟成期間や品種・使用部位などはお客様の好みに合わせて熟成肉を作らせていただきます!
経産牛の取り扱いもありますので、まずはお気軽にお声がけくださいませ。