【熟成肉の世界】①アメリカの熟成肉事情
2019.8.17

TOP > 食肉加工職人のブログ > 【熟成肉の世界】①アメリカの熟成肉事情

日本で『熟成肉』という言葉が知られるようになり、熟成肉ブームの火をつけたのはニューヨークの熟成肉&ステーキの影響が強いと思います。
熟成肉といったら、やはりアメリカ・NYは外せません!
ドライエイジングの熟成肉の美味しさが大々的に紹介されて多くの人がグッと心を持って行かれたことで、日本国内でニューヨークのドライエイジング手法に習って取り組む食肉加工・卸し業者や料理人も台頭してきました。
そんなアメリカ・ニューヨークのドライエイジドビーフとはどんなものなのか?
ここではニューヨークスタイルの熟成肉についてご紹介します!

自前の熟成庫と完成したシステム化

ニューヨークには熟成肉づくりの専門業者というのが存在していて、高い評価を受けて多くの名だたる高級レストランにも支持されています。
専用の熟成庫にはズラリと熟成肉をのせた棚が並んでいて、台風のような強い風が食肉の塊に当てられています。
ドライエイジドビーフ独特の熟成香が濃厚で、熟成庫に満々と漂うような場所です。
ここの特徴は『完成されたシステム』で、熟成庫に入れられた食肉は熟成の段階に合わせて庫内を移動していきます。
アメリカで食べられる牛ステーキは赤身肉が基本なので、日本のサシが入った和牛などに比べると断然水分量が多いです。
なのでニューヨークの熟成スタイルは初期の段階ではとにかく強い風を肉に当てて水分を飛ばすようにし、段々と風の弱い場所へと移動させることで出荷直前の頃合いになると自然とドライエイジドビーフが出来上がっている…といったシステムが完成されています。
こういった卓越したドライエイジングのシステムがあるのは、日本と比べて熟成肉の文化が根付いているという証拠なのだと思います。

レストランも自前の熟成庫を持っている!

アメリカにはレストランや小売り店などが自分の店だけの専用熟成庫を持っているところもあって、そこはやはり本場!というか熟成肉の文化の深さを感じる部分でもあります。
熟成庫はもちろんただの冷蔵庫ではなくて、店や厨房とは別で一棟まるまる熟成用の冷蔵庫です。
大きくはなくても庫内環境が整っていて、熟成香に満たされた中で風に当てられた肉が熟成されています。
この自前の熟成庫でのドライエイジングはそれぞれの店によって違っていて、庫内の微生物の繁殖を促す方法で日本と比べるとかなり高速で熟成させている店もあれば、風を回している冷蔵倉庫の中に入れておくだけという極めてシンプルな方法で30日〜50日という期間をかけて熟成肉を作っているという驚きの店もあるようです。

NYの熟成肉は“肉の質”が最優先

アメリカ・ニューヨークのドライエイジドビーフは、【どこの肉か・なんの種類か・どんな血統か・ブランド牛か】という事はあまり重視されていません。
日本とは違って格付けや血筋より肉質が最優先なので、品種は問わず交雑種かどうかも大きな判断基準では無いようで、優れていると目利きされた食肉がドライエイジドビーフになっていきます。

熟成肉はワンランク上の肉!

日本でドライエイジドビーフといえば通常の肉と比べて価格が高いですが、それはニューヨークでも同じです。
高級なスーパーマーケットやレストランなどの外食店では格上の高級肉ですし、ドライエイジドの熟成肉は小売店の店頭でも高価格で販売されています。
他の通常の肉と比べると2割3割と高いのが普通です。

ドライエイジドビーフはなぜ高いのか?

ドライエイジングという特別な手法で何週間・何十日という長い時間をかけて作られる熟成肉は、その手間ひまの分だけ当然価格が上がります。
そしてドライエイジングされた肉は乾いていて外側が硬くなっており、さらにその回りには微生物やカビがたくさん付着しています。
熟成肉の写真で白い菌に覆われた熟成肉を見たことのある方もきっといますよね!まさにあのイメージです。
ニューヨークのドライエイジドビーフは微生物やカビの付着を強く促す所もありますし、完成した熟成肉は白い菌に覆われています。
この硬くなって菌に覆われた部分は食べられないので、商品として卸したりショーケースなど店頭に並べるためには全て切り取らなければいけません。
このトリミングの段階で完成した熟成肉の30%ほどは切り取られてロスになるので、一般的な通常の肉と比べると非常に歩留まりが悪いという特徴がドライエイジドビーフの特徴でありデメリットとも言えます。

熟成肉は美味しいから愛される!

ドライエイジドビーフは手間ひまや歩留まり、技術の面からいって当然ながら高値が付きます。
それでもニューヨークの多くの名店で必ずメニューに並び、高級スーパーマーケットで取り扱われるのはそれだけドライエイジドビーフが多くの人に愛されているからだと思います。
ドライエイジドビーフ専門の業者がいて自前の熟成庫を持つレストランや小売店がいるのも、それだけ魅力的で需要があるからですよね。
ニューヨークのドライエイジングの熟成庫の中に充満する甘いようなフレーバーはドライエイジングだけの独特な特徴で、名店と言われるレストランの熟成肉には濃厚なフレーバーが感じられます。

NYの熟成肉は自由な発想で溢れてる!

『熟成肉とはこうゆうものだ!』という定義がないとご紹介したことがありますが、日本国内では熟成肉の定義も熟成肉と認定される基準も今は存在していません。
日本でドライエイジドビーフが広く認知されて好んで食べられるようになったのはまだまだ最近のことで、ニューヨークと比べたら年季が違います!
まずはドライエイジングという手法を身につけるという所からスタートして、最近はニューヨークに視察をしたり熟成肉の食べ歩きをする人が増えたと思いますが、ニューヨークの熟成肉は作り方・料理のしかた・食べ方など様々な部分で自由な発想が発揮されているような気がします。
独特で濃厚なフレーバーの熟成肉を濃厚で芳醇な香りのバターた〜っぷりで味をつけたり、スパイスの効いた味に仕上げたり…と、日本ではあまり見ないよな〜というような調理方法が見られます。
その調味方法が好きか嫌いかは置いておいて(笑)、ニューヨークのドライエイジドビーフの食べ方や味付けは各店の自由な発想で楽しまれているのだと思いました。

日本流のドライエイジングが生まれるかも

ニューヨークのドライエイジングの手法を見てみると、日本国内ではちょっとビックリ…というような熟成方法や過程を目の当たりにすることもあります。
例えば庫内の作りだったり、熟成期間だったり…
もちろん熟成庫は別棟で丸々一棟を熟成用の冷蔵庫にしたり、環境や設備や管理方法の徹底はニューヨークも日本のドライエイジドビーフを扱う食肉加工・卸し業者も同じです。
ですが、風の当て方やシステムの完成度、棚に置いておくだけというような熟成方法など日本とは違う部分がたくさん見られます。
これは取り扱う肉の種類や肉質だけではなく、その土地の温度や湿度などの自然環境と常在している菌やカビの違いにあるはずです。
実際「ニューヨークにはこんな方法があるのか…!」と勉強になりますが、全く同じ方法で日本でドライエイジングをしようと思ってもやはり上手くいかないことが沢山あります。
これまで私たちのように日本でドライエイジドビーフを作っている業者はニューヨークへ視察に行ったり勉強をして熟成肉を作って来ましたが、これからは『日本独自のドライエイジング』が生まれるかもしれません!
日本の風土を理解して特色を生かせるのはやはり私たち日本人。
そして改良&バージョーンアップが大得意なのが日本人!
これから徐々に日本特有の方法でさらに新しい美味しさを提供できるようになるのではないかと思っています。
日本のドライエイジドビーフをぜひ楽しんでください。

乳用種の美味しい熟成肉をお届けします

牛には食用種と乳用種がありますが、ドライエイジングの特徴は乳用種の牛肉も美味しくいただけるというところにあります。
乳用種の中でも硬くて食べられないと言われていた経産牛も、ドライエイジングで非常に美味しくなると評価されていたりするんです。
もともと「ドライエイジングには赤身が向いている」と言われることもあって、乳用種の熟成肉には美味しいものがたくさんあります。
乳用種の食肉を熟成させると、他の肉よりも変化が大きくて独特のフレーバーが楽しめるんです。
小川畜産興業では乳用種のドライエイジングビーフを積極的に扱っていて、熟成肉の中でも主力の商品として人気を獲得しています。
乳用種のドライエイジドビーフは非常に美味しくて独特の魅力がありますので、興味のある方は是非一度ご連絡ください。
ちなみにフランスでは『経産牛のドライエイジドビーフが最高!』と言われていて、まさに”赤身至上主義”のお国柄です。
近々フランスの熟成肉事情についてもご紹介したいと思います!