旨味や豊かなフレーバーが魅力の熟成肉ですが、『熟成肉』と言われるにはどんな基準があるのでしょうか。
そしてその熟成肉を作るにはどうしたらいいのか。
ここではそんな熟成肉を作る方法と熟成肉の判定基準についてご紹介していきます!
『熟成肉』に関してここではドライエイジングの手法で作られた熟成肉を指していますので、ドライエイジングビーフについて知っていただければ嬉しいです!
ドライエイジングとウェットエイジングの違いについてはこちら!
::>>>【熟成肉】ドライエイジングとウェットエイジングの違い<<<::
熟成肉に基準や規格はナイ!
まず、熟成肉に明確な基準や規格はありません。
『熟成肉』『DAB(ドライエイジドビーフ)』と名乗る基準は無いんです!
これは熟成肉とは何か?という科学的な根拠がなく、何が熟成なのか・どうしたら熟成肉が完成したと言えるのかという部分が明確に説明できないから。
本当は食肉卸売業者などを含め関係者はみんな基準を作るべきだと思っていますが、科学的な証明や説明ができず、明確な根拠が無いので基準の作りようが無いというのが現状です。
実際に熟成肉が持つ独特のフレーバーがどこでどうやって醸成されているのかわかっていませんし、熟成や熟成肉についてはまだまだ研究段階でわからない事がたくさんあります。
熟成肉の規格・基準が無い事で、ドライエイジングの技術を持った業者のDABも、レストランなどの飲食店の冷蔵庫で数週間吊るしておいた牛肉も、真空パックされた牛肉を指定期間より数日多く放置しておいた牛肉も、全て同じ『熟成肉』という名前で提供されていることになります。
少し長く置いておけば「熟成」かというと、そんな事はあり得ません。
熟成は腐敗と非常に近い関係にあるので、安易な熟成方法だと熟成ではなく腐敗に傾いた肉を作り出してしまいます。
ドライエイジドビーフに興味のある方・熟成肉を扱いたいと思っている方は、明確な基準が無いからこそ熟成肉とその技法を知って、その上で選択をしていってもらえたらと思います。
熟成と腐敗についてはこちら!
::>>>【熟成肉】プロ技!熟成と腐敗は背中合わせ!<<<::
ドライエイジング&熟成肉の仕組み
熟成庫の中で風を当てながら乾かして熟成を進めるのが『ドライエイジング』です。
温度と湿度、風と菌の管理によって細菌汚染や腐敗させる事なく熟成させるのが重要な技術で、ドライエイジドビーフを扱う食肉卸業者は失敗と成功を繰り返しながら知識を得て環境を整えて熟成肉を作っています。
熟成に必要なのは酵素&アミノ酸
ドライエイジングの熟成肉は外側の乾いた硬い部分をトリミングしなければなりませんが、そのトリミングをする前の熟成肉の回りにはモワモワした菌が付いているのがわかります。
熟成肉や熟成庫内の写真を見たことがある方も多いのではないでしょうか?
熟成肉はこの細菌や微生物によって熟成が進んでいると思っている方もいると思います。
私もドライエイジングと熟成肉にしっかりと向き合って学ぶまではそう思っていました。
しかし、科学的には熟成に微生物は関係していないとされています。
熟成は食肉の中の酵素とタンパク質の働きによって柔らかくなり、アミノ酸の力で旨味が増すというのがその仕組みで、ここに微生物は関わっていないということになります。
熟成肉独特のフレーバーは微生物の力…?
『熟成』自体に微生物は関わっていないという事でしたが、熟成肉独特の甘い香りやフレーバーがなぜ生まれるのかはわかっていません。
このフレーバーについては、微生物が関わっているかもしれない(関わっていないかもしれない)んです。
最初に熟成肉の基準は無いとご紹介しましたが、熟成肉を科学的に説明できないという事の1つに、フレーバーがどこでどうやって作られているのか?というのも含まれています。
ただ、独特な甘い香りやナッティなフレーバーがドライエイジドビーフならではの魅力であることは間違いありません。
NYの名店のドライエイジング方式
ドライエイジングという技法はアメリカ・ニューヨークで発展したものが有名で、世界に熟成肉ブームを巻き起こしたのもニューヨークが起点だったと言えます。
日本でのブームもニューヨークのドライエイジドビーフが元になっています。
小川畜産興業もドライエイジドビーフを扱い始めた時にはニューヨークに視察に行って勉強しました。
そんなニューヨークの名店の技術について、ちょっとご紹介したいと思います!
【温度・湿度・風・微生物】の4点がポイント
《温度》
肉の中の酵素は温度が上がると反応効率が良くなりますが、それと同時に温度が上がると腐敗菌も発生しやすくなります。
なので温度は4℃以下というのが各業者の共通で、みんな1〜3℃の温度を保ち続けています。
《湿度》
湿度は90%を超えると腐敗に傾きやすくなると言われています。
なので湿度は70%〜80%をキープするのが一般的です。
《風》
私たち小川畜産興業もドライエイジングの熟成庫では扇風機で風を送って熟成させていますが、ニューヨークでは大型の扇風機を使って肉に強い風を当てています。
特に初期の熟成段階では台風並みのものすごい風を当てている事が多く、赤身の肉の中の余分な水分を早く出して腐敗しにくくしているようです。
この余分な水分は「自由水」と呼ばれていて、肉の中を自由に移動する上に栄養が豊富で微生物や雑菌が繁殖しやすいという特徴があります。
なのでニューヨークでとても強い風を当てて肉を乾燥させるのは、自由水を引き出して腐敗を防ぐ狙いがあると考えられます。
《微生物》
先ほどの風に当たって表面に出てきた自由水は、肉の外に出てきても栄養が豊富なままなので微生物が寄ってきます。
ニューヨークではこの微生物と肉が熟成する際の酵素の働きで熟成肉特有の熟成香が生まれると考えられています。
熟成方法は肉によって変えるべき!
ニューヨークの熟成肉にはサシの少ない赤身中心の牛肉が使われています。
肉の水分は赤身の部分に含まれているので、どんどん乾かして水分を早く飛ばして腐敗しにくくする必要があるんです。
では日本でのドライエイジングもニューヨークの手法と同じにすればいいのか?というと、ここで気を付けるべきなのは食肉の水分量です。
赤身の肉は水分が多いのでどんどん乾燥させるべきですが、日本の脂が多めの肉を熟成させる場合は水分量が赤身よりも少ないので強い風でどんどん乾かすのは向いておらず、強い風を当て続ければカピカピに乾いてしまいます。
なので日本のサシの入った肉の場合は無風や微弱な風を当てて熟成させた方が良い結果になると考えられます。
熟成は肉に合わせて行う技術です!
赤身の肉は強い風でどんどん乾かす。サシのある肉は水分を飛ばしすぎないように気をつける。
とご説明しましたが、これはつまり『肉に合わせて熟成の進め方を変える』と言うのが何よりも重要!という事です。
“熟成肉は赤身”というイメージが強いのは、日本の熟成肉ブームの発端になったのがニューヨークの赤身肉中心の熟成肉だったことが根本にあります。
アメリカのみならず、その他の欧米諸国の熟成肉も赤身肉です。
また別の機会でご紹介するつもりなのですが、フランスならば少しでも脂の入った肉は毛嫌いされるほど赤身至上主義です。笑
ですが【熟成肉=赤身】という決まりはありませんし、赤身肉だけが熟成肉に向いているというわけでもありません。
熟成のために肉の部位や肉質を選ぶのではなく、肉の質や特徴に合わせて熟成を進める…こうする事でその肉の旨味が引き立つ熟成肉を作る事ができます。
熟成によって変化する事で各々違う旨味やフレーバーを楽しむ事ができるので、熟成肉を食べる人の好みで選び、美味しく食べていただければ良いのではないでしょうか。
小川畜産興業ではそんな風にどんな肉でも美味しく食べることのできるドライエイジングの技術を駆使して美味しい熟成肉をお届けしています!
熟成肉に興味のある方は是非お問い合わせください。
肉の部位や熟成期間、好みに合わせた熟成肉づくりをさせていただきます。
わからない事があればお答えしますので、お気軽にお声がけくださいませ!