熟成肉の旨さに牛肉の等級は関係ない!
2019.8.15

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今までの『良い牛肉』の基準は、牛肉の“ランク”に重きが置かれていたと思います。
もちろん“A5”と付くような肉は美味しいですし、海外からの観光客が日本でぜひ食べたい!と言って人気を博す和牛は日本ならではの牛肉です。
ですが近年、熟成肉によってその『ランク』において高評価が付いていない肉の良さについて再認識されつつあります。
赤身肉ブーム・熟成肉ブームというのは、脂がのって赤身の少ない霜降りの牛肉とは違った魅力があるから巻き起こったものなので、牛肉の良し悪しの基準は昔よりも多様化していると思います。
ここでは牛肉のランクと食肉それぞれの魅力・人気沸騰の熟成肉についてご紹介します!

牛肉の格付けに『美味しさ』は関係ない

A5、A4といった牛肉のランクは、格付けの協会が格付けを行って価値を決めています。
でも、実はその格付けの基準に『美味しさ』という項目は入っていないんです。
味に関しての評価はランク付けの要素に含まれていません。
格付けの内容は、『A・B・C』というのが歩留まり等級で、『5・4・3・2・1』というのは肉質等級になります。
歩留まりの等級は、例えば1キロの肉から脂や筋を取り除いて商品として出せる肉が元の肉の何パーセントになるのか?というのがポイントで、パーセンテージが高い歩留まりの良い肉ほどランクが高くなります。
肉質等級は脂の色や赤みの色艶、サシがどれだけキレイに入っているかというのがポイントで、これらのポイントを総合的に見て良し悪しが判断されます。
歩留まり等級+肉質等級=肉の格付け結果になるわけです。

ブランド牛=美味しいとは限らない!

全国には200以上のブランド牛がありますが、ブランド牛だから特別に美味しいのか?というと、そこはちょっと保証できないと思います。
ブランド牛だから美味しさを保証してくれるのかというと、そうではないんです。
ブランド牛の名を付けて出荷するには一定の条件を満たすことが必要ですが、その条件の内容は一般にイメージされているであろうものとは異なります。
血統や生まれは関係なく、エサについても関係なかったりします。
例えば生まれた場所が長野県であっても、宮城県の一定の地域で6ヶ月以上飼育されてその地域で屠畜されて競りにかけられれば、その宮城の地域のブランド牛として出荷することができるんです。
平たく言えば、生まれた場所と育った場所が違っても、一定の条件を満たせばみんな同じブランド牛として卸すことができるという仕組みになっています。
だから北海道で生まれた牛と鹿児島県で生まれた牛が同じブランド牛の名を持って出荷されることもありえるわけです。
細かくいえば飼育場所や飼育期間に加えてA4以上だとかいった他の条件も入ってきますが、ブランド牛の基準は意外とこんな感じです。

熟成肉に向き・不向きはない!

ドライエイジングの手法で熟成肉を作る場合、「赤身の肉が美味しくなる」「熟成肉は赤身の肉」といったイメージが一般的には先行しているのではないかと思います。
ニューヨークで人気の赤身肉を使った熟成肉が元で日本に熟成肉ブームが巻き起こったので、そういったイメージが付いたのだと思います。
日本のサシの入った霜降りの柔らかい牛肉と海外の牛肉の質は違うので、ヘルシーな赤身肉・旨みが凝縮された熟成肉というイメージからは霜降りの和牛の熟成肉は思い浮かばないかもしれません。
しかし熟成肉は赤身でなければいけない!霜降りの肉は熟成肉に向いていない!なんてことはなく、霜降りの牛肉も美味しい熟成肉になります。
さらに、食用種だけでなく乳用種の食肉もドライエイジングすることで熟成肉として美味しくいただけるようになるんです。

大事なのは「どうやって熟成させるか」

熟成肉に向くのはどんな肉?やっぱり赤身だよね!
こんなイメージは捨てちゃってください!
肉の種類を中心に考えて「熟成に適した肉」を選ぶのではなく、「肉に合う熟成方法」を考えるのが大事です。
ドライエイジングの技法は一辺倒ではなく、肉の状態を見ながら最適な熟成具合に持っていくように行われます。
熟成を行う加工業者はプロなので、しっかりと見極めながら熟成を進めていくんです。

ドライエイジング加工に必要な工夫とは?

食肉の水分は脂ではなく赤身の部分に含まれています。
なので赤身の肉の方が水分が多く、霜降りの肉の方が水分量が少ないことになります。
赤身の肉なら素早く水分を飛ばして熟成させるのが好ましいですし、水分が少ないサシが多く入った肉なら水分が急激に飛ぶのを抑えながらの熟成が求められます。
ドライエイジングでは庫内環境(湿度や温度など)の整備や送風が熟成具合を左右するので、それぞれの肉の個性に合わせて熟成方法を工夫して加工しているんです。

乳用種の肉も美味しく食べられる!

乳用種といえばホルスタインが思い浮かぶと思いますが、一般的に『国産牛』としてスーパーなどの食品売り場に並んでいる肉はこの乳用種の牛肉です。
乳用種のオスは食用として育てられ、ホルスタインとホルスタイン×黒毛和種の交雑種が主に国産肉として出荷されています。
これらの乳用種は肉用種と比べて赤身が中心なので、もともと熟成肉に向いていると言われてきました。美味しい熟成肉がたくさんあります。
海外では脂の入っていない乳用種のドライエイジングビーフの方が抜群に評価が高かったりもするんです。
食用種でも乳用種でも、熟成することで美味しくいただくことができます。

小川畜産は乳用種の熟成肉に強い!

小川畜産興業は和牛、アメリカ産、オーストラリア産などの肉用種の食肉も扱っていますが、熟成肉の主力は乳用種のホルスタインと交雑種です。
特にホルスタインは熟成による風味や味わいの変化が大きいので、日本人好みの熟成肉になると考えて進んで使用し、様々なところに卸しています。
使用する肉によって熟成による変化は異なり、仕上がった熟成肉の風味や味わいも全く違ったものになります。
なので肉の個性や特徴に合わせて加工方法・庫内管理など臨機応変に対応し、しっかり判断して熟成させるのが重要です。
熟成肉の仕上がりはお客様の好みに合わせて調整し、理想の風味や熟成具合を実現しています。
部位もロース・肩ロース・ランプなど取り揃え、バリエーションに富んだ熟成肉の加工が可能です。

経産牛が魅力的な熟成肉になる

小川畜産興業はもともとホルスタインの経産牛の取り扱いがあり、その経産牛の熟成肉の美味さに素早く気付く事ができました。
出産を経験した経産牛は食肉としてはとても硬く、そのままでは食べられないような肉質なのでミンチに加工して卸されることが一般的です。
しかしドライエイジングで熟成させると旨みが増して独特のフレーバーがつき、柔らかくて美味しい熟成肉に仕上がることがわかりました。
そこで手応えを感じ、乳用種の熟成肉も積極的に扱うようになったんです。
ニューヨークへ視察に行ったり熟成手法の勉強を繰り返してきた末に出来上がったこの乳用種の熟成肉によって『熟成は肉を美味しくするための下処理』という西洋の肉食文化の考え方を実感しました。
フランスでは脂のある牛肉は見向きもされず、何度も出産を経験している経産牛を熟成させると最高!と言われるほどです。
欧米では『熟成肉』自体に価値があるのではなく、熟成は肉を美味しくする方法の1つという感覚なのだと思います。

プロの熟成技術で肉を美味しく!

ドライエイジングというのは、ザックリ言うと肉に風を当てて乾かしながら熟成させる加工方法です。
平均で25日〜40日くらいの期間をかけて熟成庫の中で食肉を熟成させ、熟成肉をつくります。
熟成と腐敗は表裏一体のような非常に繊細な関係にあるので、個人で行うのは実はとても危険です!
ドライエイジドビーフに興味があるのであれば、専門の知識のある業者に依頼することをオススメします。
まずは熟成肉の美味しさに触れて、魅力を感じてもらえたら嬉しく思います。