みなさんは牛肉を選ぶ時、何を基準にするでしょうか。
銘柄?産地?部位?サシの入り方?料理法に合わせて?…ポイントを置く場所はいくつもあると思います。
今まではサシの入ったブランド牛が大きな人気を獲得し続けていました(もちろん今も)。
しかし赤身の牛肉の人気が熱くなり始めて、赤身肉を好んで食べる人も昔よりもかなり増えたと思います。赤身肉=ヘルシーというイメージもありますしね。
そして熟成肉に関しては、赤身の肉が向いているとされていました。ですが熟成肉というのは品種や肉質に向き・不向きがあるというより“それぞれの肉に適した熟成方法”が重要と考えられます。
好みのフレーバーや熟成具合に合わせて熟成庫の環境を整え、熟成期間を見極めることが必要になり、肉の特徴に合わせた熟成方法・熟成技術が何よりも大切なんです。
ここでは熟成肉に使用する肉と熟成方法についてご紹介したいと思います。
肉用種も乳用種も美味しくいただける
まず牛は「肉用種」と「乳用種」に分けることができますね。
・肉を食べるために肥らせて育てる肉用種
・牛乳を絞るために育てる乳用種
肉用種も乳用種も食肉として市場に出ますが、やはり両者の間には違いがあります。育て方やエサが違いますし、ストロングポイント・ウィークポイントがみんな違う。
そして熟成する時にもそれぞれに特徴があります。
一般的に牛肉というのは“未経産”の牛なので、去勢された雄牛か出産経験のない雌牛になります。「経産牛が美味しい!」という評価もありますが、一般的に店頭で出会うのは未経産牛です。
中でもホルスタイン(乳用種)の経産牛は硬くて食べられない…と言われますが、ドライエイジングして熟成させると柔らかくなりうま味が増して美味しくいただくことができるようになります。
小川畜産興行ではこのホルスタインの経産牛の熟成肉も多く扱っており、独特のフレーバーが魅力になっているんです。
このように熟成肉というのは食用種か・乳用種か?未経産牛か・経産牛か?そして和牛か否かという点が重要かというと、それは違います。
国産牛
一般的に『国産牛』と表示して肉売り場で売られているのは、乳用種の“ホルスタイン”か“ホルスタイン×肉用種の黒毛和種”の交雑種になります。
国産牛は“日本で生産された牛”とされるので、その牛の肥育期間の中で日本での肥育期間が最も長い牛は『国産牛』と呼ばれます。
肉用種に比べると赤身が中心の肉です。
ホルスタイン
乳用種。オスは肉食牛として育てられ、和牛よりも安価。
サシがあまり入らず、肉質は赤身が中心。水分が多く、赤身の肉なのでドライエイジングに向いていると言われている。安価なこともあり人気がある。
ホルスタイン×肉用種の黒毛和種
違う品種同士を交配させた“交雑種”
ホルスタインに黒毛和種が入ることで食べた時に黒毛和種のニュアンスが入る。
日本国内の交雑種はメスのホルスタインと黒毛和種を交配したものが大半をしめている。
これらの国産牛は人気があるとともに、実際にも美味しいドライエイジングビーフがあります。
和牛
『和牛』と呼ぶことができるのは、国内で4種類。
耳慣れた“黒毛和牛”“褐毛和種”“無角和種”“日本短角種”の日本固有の肉食牛です。
この中でも黒毛和牛が最も多く、和牛の90%以上は黒毛和牛が占めています。世界的にも有名な神戸牛も黒毛和牛です。KOBE BEEFを楽しみに来日する外国人観光客が多いというのは最近すっかり有名になってきましたよね。
この黒毛和牛に対して“褐毛和種”“無角和種”“日本短角種”の3種は黒毛ほどにはサシが入らず、牛肉全体の中でも3種合わせて数%程度に収まっています。
しかし赤身肉ブームによって注目が高まってきたこの3種の和牛は、ドライエイジングで熟成肉にした時に特有の美味しさが感じられる品種です。
黒毛和牛
肉用種の中では日本国内で最も飼育されている。
近畿地方や中国地方に在来していた黒い毛の農耕用・運搬用だった牛に外来種との交配を行って生まれた牛。
サシが入って霜降りになりやすいのが最大の特徴。
褐毛和種
熊本系・高知系などと言われる和種。
熊本や高知で古くから飼育されていた朝鮮牛(体毛が黄色い)に外国種を交配するなどして生まれ、それぞれの地域で改良されてきた。放牧向きで大きく育ちやすい。
サシと赤身のバランスがいいのでドライエイジングにも使用されている。
無角和種
名前の通り角がない。和牛の中で最も飼育頭数が少なく、現在は200頭しかいない超希少品種。
山口県の在来和牛にアバンディーンアンガスを交配することで改良された。
少ない飼料で大きく育つので昔は人気の高い品種だったが、黒毛和牛の人気沸騰や海外の安い牛肉が入ってきたことで激減してしまった。
日本短角種
岩手、秋田、青森、北海道を中心として飼育されている。
岩手県在来の南部牛にショートホーン種を交配させて生まれた。放牧に適していて、毛色は褐色。
筋肉質で赤身が中心の肉質。
飼育頭数は減少傾向にあるが、赤身ブームによってその存在が見直されている。
ドライエイジングによって味の変化が大きいのが特徴。
エサが牛肉の味わいを変えている!
牛の飼料は大きく分けると“濃厚飼料”と“粗飼料”の2つ。
・ 濃厚飼料:トウモロコシ、麦、大豆、米等々の穀物が中心のエサで、サシの入った牛肉になりやすい
穀物飼育をグレインフェッドという
・ 粗飼料:牧草が中心で、赤身の肉になりやすい
牧草飼育をグラスフェッドという
これがそれぞれの特徴です。
穀物飼育はアメリカで主流の飼育方法で、日本は飼料をアメリカから輸入していることもあり同じく穀物飼育が主流になっています。
ニューヨークのドライエイジドビーフが日本で人気を集めたのは、穀物飼育された牛肉に日本人が慣れているからなのではないでしょうか。
牧草飼育はニュージーランドやオーストラリアなどの広い牧草地のある産地で主流です。
ちなみに世界的には牧草飼育の方が主流なので、日本の霜降りの牛肉というのは珍しい存在です。
同じ穀物飼育、牧草飼育の中でも栄養価の高いエサかどうか、エサの素材の割合をどうするかなどによって味わいが変わり、生産者によってエサの内容や与え方が違ったりします。
牛が何を食べているか?というのが牛肉の味わいを大きく変えているんです。
肉質を決定付けるのは『どこで育つか』
牛の肉質は、育て方によって大きく左右されます。
日本では霜降りの度合いが高ければ高いほど高評価を得られるので、牛は出荷されるまでのほとんどの時間を牛舎で飼育します。運動させないで育てて、サシの入った牛肉に仕上げるためですね。
一方、赤身肉の方が格付けで有利になる地域では草系のエサで育てていて、オーストラリアやニュージーランドなどの広大な草原を有する国では放牧が主流です。
赤身に仕上がりやすいエサと運動をすることによって美味しい赤身肉ができあがります。
ちなみに日本でも褐毛和種や日本短角種などは通年で放牧したり、夏のみ放牧で育てるといった飼育をしている生産者もいます。日本では希少ですが、牛舎だけで育った牛よりも運動量が豊富なので赤身がメインの肉質になり、ドライエイジングを行う熟成肉の業者からは人気があるんです。
品種・エサ・育て方+熟成方法で熟成肉の味が決まる!
牛の品種、飼料、飼育方法について紹介しましたが、これらが組み合わさって仕上がったのがそれぞれの牛肉の味わいです。
そして、それぞれの要素が密接に関係し合って生まれた牛肉にどんな熟成を行うかで熟成肉の味が決まります。
肉質や特徴が違うということは熟成の方法もケースバイケースで変わり、仕上がりの好みによっても熟成期間や温度管理など細かい部分に変更が必要です。
水分が多い肉なら水分を抜きながら熟成を進めるのがいいし、水分が少なく脂質が多い肉なら水分を飛ばさないように注意しなければいけませんよね。牛肉の特性をよく見極めた上で、その個体に適した熟成を行うのが理想です。
小川畜産興行の熟成肉は、顧客の希望に合わせて熟成を調整しています。
取引開始前に熟成期間の違う肉を数種類味見して牛の品種、使用部位、熟成期間などを決める事が可能です。
黒毛和種、ホルスタイン、交雑種から米国産、オーストラリア産などの品種を取り揃えていて、取り扱い部位も多岐にわたっています。
熟成期間は21日間〜60日間と顧客の希望に合わせて調節しているので、求める熟成肉に合わせて決める事ができる!ぜひ違いを確かめながら熟成肉を選んでください。
まとめ
熟成肉にとって品種と肉質だけが全てじゃないということ、少しは伝わったでしょうか?
霜降りだから良いわけでも赤身だから良いわけでもなく、和牛なら良いとかアメリカ産が良いとかいうわけでもない。
それぞれの良さや熟成した上でのフレーバーの違いが大きいという事を知って熟成肉を楽しんでもらえたらと思います。